石置屋根(いしおきやね)ってなに?メリットとデメリット、素材などを紹介!
「石置屋根ってなに?」
「屋根の上に石が置いてある意味は?」
こういった疑問を持っている人もいるでしょう。
石置屋根とは板葺きの上に石が置いてある家の屋根です。
この記事では、石置屋根の特徴やメリット、デメリットなどを紹介します。
読むことで、石置屋根がなぜ使われなくなったのかがわかるでしょう。
石置屋根とは?特徴や現在の用途
屋根に板を葺いて石を置く屋根が石置屋根です。
瓦が普及する前の屋根は、主に木板が使われていました。
しかし、風で吹き飛びやすかったため石が置かれていたのです。
石置屋根の特徴
石置き屋根が用いられていたのは主に江戸時代初期です。
まだ針金や釘などが豊富に使用できなかったという時代背景から、石で板を固定する方法が用いられていました。
工法としては、板葺きの屋根面に割り木を押さえとして渡し、その棒状の割り木の上に石を並べる手順となります。
石置き屋根に敷き詰められる板は「木羽」と呼ばれ、1枚の大きさは幅9~21mm、長さは300~500mm、厚みは3~5mm程度です。
木羽には、栗やサワラ、杉、アテといった、油気が多い木が使用されていました。
油気が多いと、水を弾きやすかったり、風化しにくかったりするからだと言われています。
木羽はナタで割って使用していました。
ノコギリを引くと、木の繊維質が壊れて雨が染みやすくなり、天日で反り返ってしまうからです。
石置き屋根の特徴としては、独特な見た目だけではなく、勾配が非常になだらかであることも挙げられます。
並べた石が転がり落ちないようにするため、なだらかにせざるをえなかったと考えられています。
中には、石が転げ落ちないように縄で結わえたりしているものもありました。
石置屋根のメンテナンス方法
石置屋根のメンテナンス方法は、年に1度、板を裏返すだけです。
板の裏は風化せずに新鮮な木肌を保っているため、そのようなメンテナンス方法が行われていました。
その際、損傷が激しい板は部分的に交換を行っていました。
翌々年には再び板を裏返しにして、最終的には4回ほど使用されていたようです。
石置屋根の歴史
しかし、日本海側地域の一部では強風により藁葺きが通用しないということもあり、このような石置き屋根が用いられるようになったようです。
明治時代中期には、防火を目的とした「家屋制限令」によって、板葺き石置き屋根が禁止され、その後は瓦屋根が普及するといった歴史があります。
現在では、屋根に不燃材料を使うことが法律で定められているため、石置屋根が用いられていることは少ないです。
いまだに日本海側の北陸地域などには当時の名残がみられます。
金沢や北海道の日本海側の地域で古い番屋建築などには残っていることがあるでしょう。
海外の石置屋根の事例
ブータンの民家は、土と木でできており、屋根は板葺きの石置屋根というのが基本です。
雨の多い地域なので、屋根板の寿命は長くはありません。
しかし、人が住んでいる間は定期的なメンテナンスを行うため、築100年以上保つ家もあります。
昔の民家は、そのまま朽ち果て、土に還り、その土を使ってまた家を立てるというのがルーティーンだったそうです。
最近では、伝統的な工法での建設は禁止され、トタン屋根やコンクリートを用いることも多いとされています。
現在は、もともと城塞として使われていた「ゾン(現在は官庁)」の最も古いもののひとつとされる「ワンデュポダン・ゾン」で、石置屋根を見ることができます。
石置屋根のメリットとデメリット
石置屋根には3つのメリットとデメリットがあります。
以下で詳しく解説します。
メリット
メリットは以下の3つです。
- 風が強い地域でも屋根材の板が飛ばされない強度がある
- 雪が積もっても滑り落ちず、落雪被害を防げる
- 使用する材料が木や石なのでエコである
石を設置しているため風の影響はほとんど受けません。
また、雪が滑りにくい屋根なので落雪の危険も少ないです。
木材と石が主な素材なので環境にも優しいです。
デメリット
デメリットには以下の3つがあります。
- 火災で延焼しやすい
- 施工に手間がかかる
- 年に1度はメンテナンスが必要
木の板を使うため、火災時には燃えやすくなります。
また、特殊な工法のため施工時に非常に手間がかかり、費用が高額となりやすいです。
メンテナンス頻度が高く、1年に1度は手入れが必要な点もデメリットです。
石置屋根の用途
石置屋根は昭和30年代までに、風の強い山間部の小規模な建物に使われていました。
石置屋根は石川県金沢市で特に使用されていました。
しかし、現在は金沢市の市街地にある「森紙店」という建物にしか存在しないと言われています。
「森紙店」の建築時期は江戸時代末期と推測されています。
他の石置屋根としては、「旧三澤家住宅」という建物があります。
神奈川県川崎市にある「日本民家園」のなかにある古民家です。
「旧三澤家住宅」は長野県伊那市で作られましたが、1840年に焼失したという伝承があり、現存する建物は再建されたものだと考えられています。
その他の現存する石置屋根
代表的な2つの石置屋根の建物を紹介します。
山形県鶴岡市「国家指定重要文化財 丙申堂(へいしんどう)」
石置屋根は、この建物の見どころとしてホームページや観光情報サイトなどで紹介されています。
丙申堂は、明治29年に住居と営業の拠点として建てられました。
家主は、鶴岡城下で庄内藩の御用商人の家系、七代目当主の風間幸右衛門です。
屋根の上には、約4万個の石が載っているとされています。
主屋を中心に、蔵や広大な板の間と大黒柱などから、当時の様子を窺い知れる貴重な建物です。
それもあってか、藤沢周平原作の映画「蝉時雨」の映画ロケ地としても活用されました。
新潟県「国指定重要文化財 渡邉邸」
最盛期、3000坪の敷地と500坪の母屋では、75人の使用人が分担して働いていました。
その母屋の屋根には、22万枚の木羽と呼ばれる杉板と、約1万5千個の石が載っており、現存する中で日本最大級の石置木羽葺屋根とされています。
山形県の「丙申堂」と同じく、映画「峠 最後のサムライ」のロケ地として使われました。
その他の石を使用した屋根
天然スレート
日本ではあまり見かけませんが、ヨーロッパでは多く使われています。
天然スレートに使われる溶板岩は、採掘される地域や国、その天候に影響を受け色合いが変わります。
ご近所の屋根と被ることがないオリジナリティーや、高級感、重厚感などが演出できます。
一方で、天然スレートの加工や施工に対応できる業者が少ないため、施工費用やメンテナンスが高額になります。
最近では、人工スレートというセメントがベースになった、軽量で扱いやすい屋根材が人気です。
一部のジンカリウム鋼板
同じ成分で構成された建材には、ガルバリウム鋼板があります。
ジンカリウム鋼板自体には石を使いませんが、一部の製品に石粒をコーティングしたタイプがあります。
石粒でコーティングしたジンカリウム鋼板は、断熱性や遮音性、耐震性などに優れています。
また、色褪せがほぼなく、耐用年数が長いのもメリットといえるでしょう。
しかし、輸入品が多く、施工できる職人も少ないことから、施工費用が高くつく屋根材です。
石屋根
長崎県津島市の観光名所「椎根」にある、県指定有形文化財の石屋根倉庫です。
対馬で算出される板石を積んだ高床式の倉庫で、住宅ではなく、衣類や穀物を格納するのに使われていました。
まとめ:石置屋根は現在では珍しい「石を置いた屋根」
石置屋根は、江戸時代に利用されていた非常に珍しい屋根です。
それまでは、西部海岸や山間部では雪の影響もあり、急勾配の藁葺き屋根を採用していました。
しかし、藁葺き屋根は強風に耐えられなかったり、針金や釘などの金物が十分に使用できなかったりしたために、石置き屋根が作られました。
石置屋根は、先人たちが時代背景や地域の風土を考えて生み出した、日本の伝統建築だといえるでしょう。
古い屋根には「茅葺き屋根」というものもあります。
具体的に知りたい人は「茅葺き屋根ってなに? 特徴やメリット、作りかたを知ろう」もチェックしてみてください。